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2022年10月

2022年10月21日 (金)

台風15号が残した課題 県と市町 連携不可欠

                                             -2022/10/19 静岡新聞「時評」掲載-

 

 県内を襲った台風15号の傷跡に多くの県民が苦しむ中、926日の川勝平太知事の発言を残念に思ったのは私だけではないだろう。自衛隊への派遣要請が遅れた理由を問われ、「待っていたが市町からの要請が今日になったため」とのことだった。必要なら、なぜ知事の判断で早く要請しなかったのだろうか。

 

 今回、県内の中山間地域を中心に1時間雨量が100ミリ以上にも達する豪雨が続いた。静岡市内でも24時間雨量は416.5ミリと、1974年の七夕豪雨の記録508ミリに迫る勢いであり、災害は十分予見できた。当初は、同市内の大規模停電や浸水、断水に目が向き、中山間地域での家屋への土石流浸入や河川閉塞(へいそく)など、深刻な事態が起きていた状況が、なかなか把握できなかったと聞く。本来であればヘリコプターなどで早期の情報収集が実施されるべきであっただろう。

 

 災害時に迅速な応急活動で住民の生命と財産を守るためには、県と市町村の緊密な連携が不可欠である。災害対策基本法は「市町村の責務」として、5条に住民の生命、身体・財産を災害から保護することを明記している。一方、4条は「都道府県の責務」として市町村の防災業務を助け総合調整を行うことを規定している。このため72条では、市町村長に応急措置を指示したり、他の市町村長に応援を指示したりするほか、73条では必要な場合に応急措置を代行する役割も定めている。

 

 今回のように、災害が予見される事態が発生すれば、初動段階で都道府県から市町村に調整要員を派遣し、プッシュ型の必要な支援も行えた。例えば被害の全容を把握するため、ヘリによる情報収集や孤立地域への要員派遣などは、その後の応急対策を実施する上でも重要である。

 

 緊急時の情報不足、意思決定の遅れや食い違いが生じる深刻な要因としては、平時からのコミュニケーションの不足、上下関係や組織関係による遠慮、信頼不足などが挙げられる。こうした事態を避けるため、例えば組織内や組織間での人事交流により互いの業務への理解を深め、人と人のつながりを作っておくのも一つの方法だ。

 

 南海トラフ地震などの広域激甚災害では、今回の台風15号より一層過酷な事態も想定される。今回の事態を重く見て、県も市町も改めて体制の立て直しを図るべきであろう。

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