自治体、企業の事業継続計画 平時こそ見直しの好機
-2023/2/15 静岡新聞「時評」掲載-
災害などの緊急事態が発生した時に、被害を最小限に抑え、早期復旧や事業継続を図る計画を事業継続計画(BCP)と呼んでいる。2007年の新潟県中越沖地震で、自動車の重要部品の国内シェア50%を占めるメーカーが被災し、国内の自動車生産は一時全面中止した。その教訓から、企業のBCP作成が本格的に始まった。
政府も首都直下地震対策の一環として政府のBCPの作成を進め、自治体にも普及を図ってきた。22年版の防災白書によると、BCP作成率は都道府県100%、市町村97%、大企業では70.8%、中堅企業は40.2%と、十分ではないもののようやく進み始めた。
富士山の火山ハザードマップ改定や近年多発する大規模水害を機に、BCP見直しの相談を時々受ける。対応の基本は同じであるが、備える装備やサプライチェーンが多層化すること、ハザード(危険)に応じ業務回復の目標を変えて見直すことが求められる。
こうした中、自治体や企業の災害対応力について気に掛かる事がある。体制は「できていたはず」だとか、対応は「できるはず」であったが実際の災害場面で「機能しなかった」「忘れられていた」といった話を災害後の検証でよく聞く。なぜそうなるのか。
計画を作って何年も放置したまま、いざ対応しようとしたら状況が変わっていた-というケースもあり得る。作成当時の担当者は関係者と調整し、細部まで目を配って計画を作り上げる。その時に災害が起きれば的確に対応できても、引き継ぎを繰り返すうちに計画していた対応場所や機能、担当者、連絡方法なども変わり、時を経て計画そのものが陳腐化することがある。
BCPの作成率が上がってきた一方で、めったに運用されない計画にはこうした盲点が潜む。通り一遍の防災訓練で全て検証することは困難だ。むしろ商業施設や製造業などで定期的に行われる「棚卸し」のように、計画をいったん白紙に戻し、再構築するほうが早いこともある。これまでのノウハウを切り捨てるのではなく、蓄積したノウハウを活用することが重要である。
日々の多忙な業務の中で、原点に振り返って組み立て直すことは勇気のいる作業である。しかし、大災害に遭遇して「あの時、見直しておけば良かった」と悔やむことがないよう、何事もない平時こそ体制を見直すチャンスである。
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