災害時の在宅要介護者支援 活動の『障壁』見直しを
-2023/4/11 静岡新聞「時評」掲載-
東日本大震災の被災自治体に何度か支援に入る中、発災から4カ月過ぎた頃、福祉関係の職員から「直接被災していない地区の福祉サービスが途絶え、在宅の要介護者が亡くなるケースが増えている」との報告を受けた。当時、デイサービスや給食・入浴支援など在宅福祉が普及し始めていたが、災害で要介護者への支援を避難所などに集中させ、他地区への支援が滞ったことも要因とみられた。
2022年の日本の高齢者人口は3627万人で、高齢化率は29%と世界一である。さらに、22年版高齢者白書によると、25年の認知症患者は700万人を超えて高齢者5人に1人、40年には4人に1人に上ると予想されている。こうした時代に対応し、認知機能の軽度の衰えがみられる高齢者に対しては、在宅福祉サービスを充実させ、何とか自宅での生活維持を目指してきた。しかし、災害で生活環境が激変すると、普段の体制では全く対応できなくなる。
昨年、県内を襲った台風15号の被災地で、普段は福祉サービスを受け自宅で生活できていた軽度の認知症の方が浸水被害に遭遇し、どう対応してよいか分からず困惑する事態も起きた。自治体からの支援が届かない中、日頃の福祉サービスを調整していたケアマネージャーがこうした事態を知り、災害ボランティアなど外部の支援を求めたくても、原則として利用者の個人情報を他者に伝えることができないとの制約から、自ら奮闘して生活維持や自宅の復旧作業の調整にあたったというケースをいくつか伺った。
災害など緊急時には、利用者の個人情報であっても支援に必要な情報は、自治体や地域包括支援センターなど公的組織を通じて、災害ボランティアなどの支援活動に直接つなげる方策をあらかじめルール化しておくべきと強く感じた。
「災害時に誰一人取り残さない」との大目標を掲げ、各自治体では個別避難計画の作成に取り組んでいる。これをさらに拡充し「災害時個別支援プラン」に発展させる動きが全国に広がっている。具体化するためには、要介護者が災害時のさまざまな緊急支援活動を迅速に受けられるよう、普段から一人一人に寄り添っているケアマネージャーが、災害など緊急時には障壁なく支援者に要請できる制度と体制整備が求められる。