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2023年11月21日 (火)

災害時のリスク認知 行動ゆがめる偏見注意

                                                                                                            -2023/11/21 静岡新聞「時評」掲載-

 

「ものをこわがらな過ぎたり、こわがり過ぎたりするのはやさしいが、正当にこわがることはなかなかむつかしい」(原文ママ)

 

 これは明治から昭和にかけて活躍した物理学者、寺田寅彦が浅間山(群馬県、長野県)の小規模噴火に遭遇して残した言葉である。災害など、私たちの身の回りに起きるリスクに対して的確に行動するためには、そのリスクを正しく認識し、寺田が述べたように「正当にこわがる」ことが重要である。しかし、往々にして私たちは自分勝手にそのリスクを理解し、時には無視し、時には過大視して行動することがある。こうした傾向はリスク認知のバイアス(偏り)と呼ばれ、いわゆる先入観や偏見が邪魔をして行動がゆがめられてしまう。

 

 リスク認知のバイアスはさまざま報告されている。よく知られるのは「正常性バイアス」で、身の回りに危険が迫るなど異常な状況でも、何とか普通の状況であるように理解しようとする傾向である。災害時に避難の遅れにつながることからよく問題視される。身に迫るリスクを楽観的に解釈し、心理的ストレスを軽減しようとする「楽観主義バイアス」も同様の問題を抱える。

 

 一方で、過去に遭遇したリスクに対して成功したわずかな経験だけで判断し、新たなリスクに対する状況判断を誤らせてしまう「ベテランバイアス」も問題である。逆に、経験のないリスクに対して過大に、もしくは過小に評価し、正確なリスク認知が得られない「バージンバイアス」も問題になる。

 

 さらに、大勢の人がいると、自分本来の判断とは異なっていてもとりあえず周囲に合わせようとする心理が働くことがある。「同調性バイアス」と呼ばれ、雑踏などで集団が制御できなくなり、時々大きな事故につながることがある。

 

 危険が身に迫っているにもかかわらず、避難など本来の退避行動が取れずに犠牲にならないよう、リスク認知のバイアスを少しでも正していく必要がある。しかし、リスクを正しく認識し、それを的確に判断して回避することは大変難しい。今月から来月にかけて、県内各地域ではさまざまな研修会や防災訓練が行われる。ぜひこうした機会に身の回りの災害リスクをしっかり確認し、災害時の行動を再点検して、リスク認知のバイアスからの解放を目指していただきたい。

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