時評

2024年2月21日 (水)

能登半島地震 自分事に 防災対策 実効性担保を

                                                                                                              -2024/2/20 静岡新聞「時評」掲載-

 

 まさに災害は時を選ばず起きる。元日に発生した能登半島地震では多くの建物が倒壊し、斜面崩落、直後に襲来した津波、延焼火災などで多くの犠牲者を出した。寒さ厳しい中、地域を結ぶ道路網、電気、水道、通信など生活を支えるライフラインも各所で途絶え、情報や交通が遮断された孤立集落が多数発生し、救助活動も困難を極めた。とりわけ高齢化と人口減少が進む地域を襲ったため、その後の避難生活も大変な苦労を伴っていることが日々の報道から伝わってくる。

 

 今回の震災を契機に自治体など多くの機関で防災体制の再チェックの動きがある。その時、ぜひ取り組んでいただきたい重要な要素が二つある。

 

 一つは「性能の表示」である。構造物などハード面の対策、応急活動や備蓄などソフト面の対策について、個々の能力と限界を確認して誰もが分かるよう示すことである。能力と限界が共有できれば対策の具体化につながっていく。洪水や土砂災害、津波のハザードマップはある意味で、その土地の性能を示すものの一つである。同様に、多くの人が利用する公共施設や旅館・ホテル、商業施設なども、耐震性能や防火能力、非常電源や備蓄などそれぞれが保有する性能を示し、利用者に理解を促すことも必要である。地域の災害対応力も、防災倉庫に何が備わりどう活用できるのか、いざという時に頼れる人材は誰かなど、準備してきたさまざまな対策を個々の性能として示しておくことである。

 

 性能を理解した上で、二つ目として、さまざまな対応計画をBCP(事業継続計画)、BCM(計画実行のマネジメント)の視点でチェックし、実行性を担保することである。計画を具体的に実施する人材や活用できる資源、それを動かす仕組みを確認し、災害で施設被害や職員の被災、交通・通信などの障害が発生する中、計画を実行するためのネックはどこにあり、不足する資源や代替手段は何かを確認しておく。日ごろの点検や訓練を通じて問題点をあぶり出し、実行可能な対応計画へと常に見直しておく。こうした日常のマネジメントがなければ計画は陳腐化し、いざという時に役立たないことが往々にしてある。

 

 今回の能登半島の震災を自らのことして、関係機関にはいま一度、防災対策の再構築を図られることを期待する。

2023年11月21日 (火)

災害時のリスク認知 行動ゆがめる偏見注意

                                                                                                            -2023/11/21 静岡新聞「時評」掲載-

 

「ものをこわがらな過ぎたり、こわがり過ぎたりするのはやさしいが、正当にこわがることはなかなかむつかしい」(原文ママ)

 

 これは明治から昭和にかけて活躍した物理学者、寺田寅彦が浅間山(群馬県、長野県)の小規模噴火に遭遇して残した言葉である。災害など、私たちの身の回りに起きるリスクに対して的確に行動するためには、そのリスクを正しく認識し、寺田が述べたように「正当にこわがる」ことが重要である。しかし、往々にして私たちは自分勝手にそのリスクを理解し、時には無視し、時には過大視して行動することがある。こうした傾向はリスク認知のバイアス(偏り)と呼ばれ、いわゆる先入観や偏見が邪魔をして行動がゆがめられてしまう。

 

 リスク認知のバイアスはさまざま報告されている。よく知られるのは「正常性バイアス」で、身の回りに危険が迫るなど異常な状況でも、何とか普通の状況であるように理解しようとする傾向である。災害時に避難の遅れにつながることからよく問題視される。身に迫るリスクを楽観的に解釈し、心理的ストレスを軽減しようとする「楽観主義バイアス」も同様の問題を抱える。

 

 一方で、過去に遭遇したリスクに対して成功したわずかな経験だけで判断し、新たなリスクに対する状況判断を誤らせてしまう「ベテランバイアス」も問題である。逆に、経験のないリスクに対して過大に、もしくは過小に評価し、正確なリスク認知が得られない「バージンバイアス」も問題になる。

 

 さらに、大勢の人がいると、自分本来の判断とは異なっていてもとりあえず周囲に合わせようとする心理が働くことがある。「同調性バイアス」と呼ばれ、雑踏などで集団が制御できなくなり、時々大きな事故につながることがある。

 

 危険が身に迫っているにもかかわらず、避難など本来の退避行動が取れずに犠牲にならないよう、リスク認知のバイアスを少しでも正していく必要がある。しかし、リスクを正しく認識し、それを的確に判断して回避することは大変難しい。今月から来月にかけて、県内各地域ではさまざまな研修会や防災訓練が行われる。ぜひこうした機会に身の回りの災害リスクをしっかり確認し、災害時の行動を再点検して、リスク認知のバイアスからの解放を目指していただきたい。

2023年9月27日 (水)

2014年御嶽山噴火の教訓 火山活動「見える化」を

                                                                                                                -2023/9/26 静岡新聞「時評」掲載-

 

 岐阜・長野県境の御嶽山(3067㍍)が噴火して、あす27日でちょうど9年になる。火山活動としては小規模な水蒸気噴火であったが、紅葉真っ盛りの昼時(午前1152分発生)で山頂付近に多くの登山者が居合わせ、噴煙や噴石に巻き込まれて63人の死者・行方不明者を出す大惨事となった。

 

 噴火17日前の910日には火山性地震が52回、11日には85回観測され、その後の地震活動は小康状態とはいえ継続していた。本来であれば、当時既に導入されていた噴火警戒レベルを「2」に引き上げ、火口周辺への立ち入り禁止、登山者への注意喚起を行ってもよい状況であった。

 

 この噴火を受けて2015年、活火山法(活動火山対策特別措置法)が改正され、全国の主要な50の活火山のうち防災上重要な49火山で観測機器の設置など常時監視を行うこととなった。さらに、都道府県や市町村、関係機関などで構成する火山防災協議会が設置され、火山ハザードマップの整備や噴火警戒レベルの導入とともに、住民や登山者の警戒避難体制が強化されてきた。今年6月の法改正では、政府に新たに火山調査研究推進本部を設置し、火山の観測や調査研究、広報の強化が行われる。

 

 こうした体制強化の中でぜひ期待したいのが火山活動状況の「見える化」である。141029日の本欄においても観測データの公開を呼びかけたが、なかなか進んではいない。

 

 各火山には地震計や傾斜計をはじめ、さまざまな観測機器が設置されている。地震観測データなどを研究者など専門家に提供する仕組みはできたが、あくまでも観測した生のデータで、一定の解析を行わないと震源の位置などは分からない。気象分野では、衛星画像が公開され雲の動きは誰でも見ることができ、雨雲の動きや雨の降り方も気象庁の降水ナウキャストを見ると一目で分かるようになった。

 

 火山活動は台風や集中豪雨などと違ってまれにしか活発化しない。このため普段の状態はほとんど注目されないことが多い。地下で起きている火山性地震やマグマの動き、地殻のひずみ、火口周辺の噴気の状況など、小さな変化であっても火山の日常の状況を見える化し、誰もが理解できるようしておくことが重要だ。こうした積み重ねにより、いざ警戒が必要な時に的確な行動を促すことができる。

2023年8月 2日 (水)

熱中症特別警戒情報 高温 災害並み対応必要

                                                                                                                 -2023/8/1 静岡新聞「時評」掲載-

 

  今年の夏も欧州などの地中海沿岸では熱波が襲い、気温40度を超えて犠牲者を出している。米国中部や中国内陸部でも同様に異常な高温が続いている。日本も7月の梅雨末期からかなりの高温が続き、熱波の襲来は決してひとごとではない。

 

 国内では高温による熱中症の死者は近年増加し、2010年は過去最多の1745人だった。1318192022年はいずれも年間1000人を超えている(厚生労働省の人口動態統計)。自然災害による死者は、阪神・淡路大震災が起きた1995年と東日本大震災が起きた2011年を除くと年間1000人を下回り、1222年の11年間における平均は186人。おおむね100200人台で、最大でも18年の452人である(23年版防災白書)。単純比較はできないが、熱中症による死者は自然災害の犠牲者を有意に超えている。

 

 地球温暖化に伴うこうした危機感からか、政府は4月に気候変動適応法を改正し、極端な高温状態が予想される場合には現在の熱中症警戒アラートから1段上の熱中症特別警戒情報を発し、住民が一時的に退避できる冷房の効いた「クーリングシェルター」の設置を市町村に呼びかけるとのことである。既に、東京都内の各区や埼玉県熊谷市、神奈川県秦野市など全国いくつかの自治体では、図書館や公民館などの公共施設だけでなく、ショッピングセンター、コンビニ、薬局など民間施設の協力を得た体制整備が始まっている。

 

 災害対策基本法は、豪雨、地震、津波、噴火などとともにその他の異常な自然現象による被害を災害としているが、高温という異常な気象現象は犠牲者の多さから見ても大規模災害に匹敵する対応が必要である。特に、昨年の東京や大阪の実態を見ると犠牲者の8割以上が高齢者だ。災害時の要支援者に対する地域での声掛けや避難支援など、以前から培ってきた災害対応の仕組みを活用し、冷房設備の使用などの呼びかけが望まれる。災害時の避難所となる学校の教室や体育館も冷房設備が整えば(文部科学省によると冷房設置率は全国平均65%、静岡県内49%)、避難所の環境改善だけでなくクーリングシェルターとしても期待できる。

 

 まずは官民が協力して、大規模災害に匹敵する熱波という新たな事態に向き合っていく必要がある。

2023年6月 7日 (水)

非常口確保の大切さ 日常文化として徹底を

                                               -2023/6/6 静岡新聞「時評」掲載-

 

 100年前に起きた関東大震災の最大の教訓は都市防火と避難である。当時に比べ建物の防火対策は格段に進歩した。その傍らで、いくら口を酸っぱくして消防が指導しても、非常口の裏に物が積み上げられている光景を目にする。いざ火災発生という時に大きな障害になることは目に見えている。

 

 先日、ロンドンの大英博物館を見学する機会があった。展示面積57000平方メートル。世界中からの収蔵品が所狭しと並べられ、多くの見学者でごった返していた。館内のレストランで休憩していた時、火災警報器の耳障りなサイレン音とともに「避難するように」との館内放送が流れてきた。さて、どうするのか。廊下の角ごとに黄色のベスト姿の職員が立ち、落ち着いた声で誘導し、子どもを含む多くの来館者が慌てることなく館外に移動を始めた。

 

 感心したのは、要所要所に「火災の非常口」の誘導マークが大きく表示され、非常用のドアや通路には「KEEP CLEAR(キープ・クリアー)」の表示があり、障害物は何も置かれていない。避難した広場を見回しただけでも1000人を超える来館者が、数分で見事に避難したことは新鮮な驚きであった。結果的には警報機の誤作動であったが。

 

 街中を歩くと、ホテルやレストラン、商店など公共空間には、普段の出入り口とは別に非常口が複数設けられ、通路に物一つ置かれていない。さらに、こうした公共施設では毎月定期的に訓練や避難ルートの確認が行われているとのこと。消火器や消火栓は通路の目立つ所に堂々と設置され、非常口の表示は誰の目にも付くよう大きい。これほど徹底した街を私はこれまでに経験したことがない。

 

 その背景には、357年前、1666年のロンドン大火の教訓が今でも強く影響していると聞いた。当時の家屋はほとんどが木造で街路も狭く、家屋の85%が焼失した。これをきっかけに木造建築の禁止など建築規制が行われ、併せて防火対策が今でも強く意識されている。2017年にロンドン市内で起きた高層住宅火災も、直近の教訓として影響しているかもしれない。

日本もロンドン同様にさまざまな防火対策が進められている。中でも、緊急時の非常口の安全確保は防火管理者だけでなく、その建物を利用する全員の責務でもある。こうした安全対策を何げない日常として徹底できる文化が必要だと強く考えさせられた。

2023年4月12日 (水)

災害時の在宅要介護者支援 活動の『障壁』見直しを

                                                                                                             -2023/4/11 静岡新聞「時評」掲載-

 

 東日本大震災の被災自治体に何度か支援に入る中、発災から4カ月過ぎた頃、福祉関係の職員から「直接被災していない地区の福祉サービスが途絶え、在宅の要介護者が亡くなるケースが増えている」との報告を受けた。当時、デイサービスや給食・入浴支援など在宅福祉が普及し始めていたが、災害で要介護者への支援を避難所などに集中させ、他地区への支援が滞ったことも要因とみられた。

 

 2022年の日本の高齢者人口は3627万人で、高齢化率は29%と世界一である。さらに、22年版高齢者白書によると、25年の認知症患者は700万人を超えて高齢者5人に1人、40年には4人に1人に上ると予想されている。こうした時代に対応し、認知機能の軽度の衰えがみられる高齢者に対しては、在宅福祉サービスを充実させ、何とか自宅での生活維持を目指してきた。しかし、災害で生活環境が激変すると、普段の体制では全く対応できなくなる。

 

 昨年、県内を襲った台風15号の被災地で、普段は福祉サービスを受け自宅で生活できていた軽度の認知症の方が浸水被害に遭遇し、どう対応してよいか分からず困惑する事態も起きた。自治体からの支援が届かない中、日頃の福祉サービスを調整していたケアマネージャーがこうした事態を知り、災害ボランティアなど外部の支援を求めたくても、原則として利用者の個人情報を他者に伝えることができないとの制約から、自ら奮闘して生活維持や自宅の復旧作業の調整にあたったというケースをいくつか伺った。

 

 災害など緊急時には、利用者の個人情報であっても支援に必要な情報は、自治体や地域包括支援センターなど公的組織を通じて、災害ボランティアなどの支援活動に直接つなげる方策をあらかじめルール化しておくべきと強く感じた。

 

 「災害時に誰一人取り残さない」との大目標を掲げ、各自治体では個別避難計画の作成に取り組んでいる。これをさらに拡充し「災害時個別支援プラン」に発展させる動きが全国に広がっている。具体化するためには、要介護者が災害時のさまざまな緊急支援活動を迅速に受けられるよう、普段から一人一人に寄り添っているケアマネージャーが、災害など緊急時には障壁なく支援者に要請できる制度と体制整備が求められる。

2023年2月16日 (木)

自治体、企業の事業継続計画 平時こそ見直しの好機

                                                                                                          -2023/2/15 静岡新聞「時評」掲載-

 

 災害などの緊急事態が発生した時に、被害を最小限に抑え、早期復旧や事業継続を図る計画を事業継続計画(BCP)と呼んでいる。2007年の新潟県中越沖地震で、自動車の重要部品の国内シェア50%を占めるメーカーが被災し、国内の自動車生産は一時全面中止した。その教訓から、企業のBCP作成が本格的に始まった。

 

 政府も首都直下地震対策の一環として政府のBCPの作成を進め、自治体にも普及を図ってきた。22年版の防災白書によると、BCP作成率は都道府県100%、市町村97%、大企業では70.8%、中堅企業は40.2%と、十分ではないもののようやく進み始めた。

 

 富士山の火山ハザードマップ改定や近年多発する大規模水害を機に、BCP見直しの相談を時々受ける。対応の基本は同じであるが、備える装備やサプライチェーンが多層化すること、ハザード(危険)に応じ業務回復の目標を変えて見直すことが求められる。

 

 こうした中、自治体や企業の災害対応力について気に掛かる事がある。体制は「できていたはず」だとか、対応は「できるはず」であったが実際の災害場面で「機能しなかった」「忘れられていた」といった話を災害後の検証でよく聞く。なぜそうなるのか。

 

 計画を作って何年も放置したまま、いざ対応しようとしたら状況が変わっていた-というケースもあり得る。作成当時の担当者は関係者と調整し、細部まで目を配って計画を作り上げる。その時に災害が起きれば的確に対応できても、引き継ぎを繰り返すうちに計画していた対応場所や機能、担当者、連絡方法なども変わり、時を経て計画そのものが陳腐化することがある。

 

 BCPの作成率が上がってきた一方で、めったに運用されない計画にはこうした盲点が潜む。通り一遍の防災訓練で全て検証することは困難だ。むしろ商業施設や製造業などで定期的に行われる「棚卸し」のように、計画をいったん白紙に戻し、再構築するほうが早いこともある。これまでのノウハウを切り捨てるのではなく、蓄積したノウハウを活用することが重要である。

 

 日々の多忙な業務の中で、原点に振り返って組み立て直すことは勇気のいる作業である。しかし、大災害に遭遇して「あの時、見直しておけば良かった」と悔やむことがないよう、何事もない平時こそ体制を見直すチャンスである。

2022年12月15日 (木)

地域防災のイノベーション 災害時の多様な課題 地域の支援者と連携を

                                             -2022/12/14 静岡新聞「時評」掲載-

 

 年が明けると、阪神・淡路大震災から丸28年を迎える。多くの建物が倒壊し多数の犠牲者を出したが、一方で、地震直後の暗がりの中、近隣住民たちの懸命の救助活動があった。ある推計によると、がれきに閉じ込められた35千人のうち77%は隣近所の人に助け出されたという。当時は高齢化率がまだ14.6%の時代。現在は30%に迫ろうとしている。今、大震災が起きたら、果たしてこうした救助活動が可能なのか。

 

 静岡県内では、1978年頃から地域の共助の要として自主防災組織が結成され、防災訓練をはじめ、さまざまな防災活動が行われてきた。しかし、県が2021年に行った県民意識調査では、自主防災組織の活動に参加している割合は39%と、調査のたびに減少傾向にある。また、役員に女性不在の組織が56%あり、災害時の多様な課題に対処できるのか懸念される。

 

 私の身近な地域で、新型コロナ禍が始まった2年前から、有志が自発的に避難所運営訓練などの防災活動を始めた。活動の特徴は、既存の自主防災組織や自治体の主催ではなく、地域でさまざまな活動をしている人たちが、災害時の課題を何とか解決したいとの思で取り組んでいることにある。きっかけは、重い障がいのある方がコロナ禍の中で避難所に行けるのか、行っても支援が受けられるのかという素直な疑問を抱いたからだったと聞く。

 

 実行委員会のメンバーを見ると、民生・児童委員、消防団員、ボランティア団体メンバー、社会福祉協議会や福祉施設の職員、障がいのある方、医師や看護師、市職員、大学や中学教員、PTAの役員、ごく普通の主婦やサラリーマンなど実に多彩である。

 

 近年は、地域社会でも障がい者や寝たきりの方が暮らす家庭への生活支援、子育て支援、食の支援などの取り組みが増え、さまざまな団体や地域の人たちが関わっている。しかし、災害でライフラインが途絶えたり、避難を余儀なくされたりした場合の課題は大きい。例えば、在宅医療機器の電源障害は直ちに生命の危機につながる。

 

 こうした課題解決に向け、普段からさまざまな支援に取り組む人たちの活動が既存の自主防災組織と問題意識を共有して結び付いていけば、まさに地域防災のイノベーション(新たな価値の創造)につながると期待される。

2022年10月21日 (金)

台風15号が残した課題 県と市町 連携不可欠

                                             -2022/10/19 静岡新聞「時評」掲載-

 

 県内を襲った台風15号の傷跡に多くの県民が苦しむ中、926日の川勝平太知事の発言を残念に思ったのは私だけではないだろう。自衛隊への派遣要請が遅れた理由を問われ、「待っていたが市町からの要請が今日になったため」とのことだった。必要なら、なぜ知事の判断で早く要請しなかったのだろうか。

 

 今回、県内の中山間地域を中心に1時間雨量が100ミリ以上にも達する豪雨が続いた。静岡市内でも24時間雨量は416.5ミリと、1974年の七夕豪雨の記録508ミリに迫る勢いであり、災害は十分予見できた。当初は、同市内の大規模停電や浸水、断水に目が向き、中山間地域での家屋への土石流浸入や河川閉塞(へいそく)など、深刻な事態が起きていた状況が、なかなか把握できなかったと聞く。本来であればヘリコプターなどで早期の情報収集が実施されるべきであっただろう。

 

 災害時に迅速な応急活動で住民の生命と財産を守るためには、県と市町村の緊密な連携が不可欠である。災害対策基本法は「市町村の責務」として、5条に住民の生命、身体・財産を災害から保護することを明記している。一方、4条は「都道府県の責務」として市町村の防災業務を助け総合調整を行うことを規定している。このため72条では、市町村長に応急措置を指示したり、他の市町村長に応援を指示したりするほか、73条では必要な場合に応急措置を代行する役割も定めている。

 

 今回のように、災害が予見される事態が発生すれば、初動段階で都道府県から市町村に調整要員を派遣し、プッシュ型の必要な支援も行えた。例えば被害の全容を把握するため、ヘリによる情報収集や孤立地域への要員派遣などは、その後の応急対策を実施する上でも重要である。

 

 緊急時の情報不足、意思決定の遅れや食い違いが生じる深刻な要因としては、平時からのコミュニケーションの不足、上下関係や組織関係による遠慮、信頼不足などが挙げられる。こうした事態を避けるため、例えば組織内や組織間での人事交流により互いの業務への理解を深め、人と人のつながりを作っておくのも一つの方法だ。

 

 南海トラフ地震などの広域激甚災害では、今回の台風15号より一層過酷な事態も想定される。今回の事態を重く見て、県も市町も改めて体制の立て直しを図るべきであろう。

2022年8月31日 (水)

南海トラフ地震臨時情報 防災の日に行動確認を

                   -2022/8/24 静岡新聞「時評」掲載-

 

 今年(2022)725日の朝、富士宮で震度3を観測する地震(マグニチュード3.4)が発生し、しばらく余震も続いた。富士川河口断層帯付近を震源とする地震で、南海トラフから駿河トラフに連なる巨大地震の震源域がちょうど陸に差し掛かる、嫌な場所で起きた地震だった。

 

 規模が少し大きければ被害発生の可能性もあった。さらに大きいマグニチュード7クラスの地震であったら、東海地震など南海トラフ沿いの大地震を誘発する可能性も否定できず、国は「南海トラフ地震臨時情報」の発表を検討することになる。臨時情報が発表される別のケースとしては、震源域のうち西側か東側の半分で巨大地震が発生し、残った半分の震源域で巨大地震発生の可能性が高まった場合も想定される。

 

 臨時情報に関して、県が4月に発表した県民意識調査の結果が気にかかる。臨時情報を「知っている」という人が26.4%だったのに対し、聞いたことはあるが「内容を知らない」「聞いたことがない」という人は計73.6%であった。高知県の昨年の調査でも、臨時情報を「知らない」「聞いたことがない」という人が計77.6%と、傾向はほぼ同様である。こうした現状でもし臨時情報が発表される事態になれば大混乱は避けられない。

 

 臨時情報は解除されても、巨大地震発生の可能性が普段より高まったことに変わりはない。情報が出たらどう行動するのか、解除された後も含めて対応を確認しておく必要がある。鉄道や高速道路など輸送機関、製造ラインを抱える企業や店舗などの多くは普段通りの営業が望まれている。ただし、大津波がすぐに来襲し避難するいとまがない地域では営業を見合わせるなど、何らかの自衛措置が求められる。学校や社会福祉施設、医療機関なども同様であろう。

 

 心配なのは、各事業所が具体的にどう対応すべきか、あまり示されていないことである。こうしたことも、県民意識調査で多くの人が臨時情報を知らないと答えた結果につながっているのではないか。

 

 9月1日は防災の日。臨時情報が出された時にどう対応するのか、県民一人一人と共に各事業所も改めて行動を確認し、あらかじめ対処できることは今のうちに実施していただきたい。特に、津波や土砂災害のリスクの高い場所、耐震性の低い施設では必須である。

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